「三番瀬の未来を考えるシナリオ・ワークショップ」に参加される方のマニュアル

開催日時:2003年
5月17日(土)・18日(日)・31日(土)
それぞれ午前10時から午後5時まで
会場:千葉工業大学津田沼校舎7号館4階(7404・7405教室)
主催:「開かれた科学技術政策形成支援システムの開発」研究プロジェクトチーム
後援:三番瀬再生計画検討会議・千葉県

◆ 目次

このワークショップに参加される皆さんへ お願い
このワークショップへの参加にあたって 知っておいていただきたいこと
    ・このワークショップが目指すもの
    ・何をするのか?
    ・シナリオ・ワークショップの主役
    ・このワークショップを組織し運営する人々
    ・公開について
    ・このワークショップの記録収集について
    ・すべて「さん」付けで
日時と会場
ワークショップのスケジュール(予定)
ワークショップに関わる人々と役割
    1. ワークショップ参加者
    2. ファシリテーター(グループリーダー)
    3. 事務局
    4. 運営委員会
    5. メディア
このシナリオ・ワークショップについて(参考資料)
     1. シナリオ・ワークショップについて
    2. 社会実験として行うことの意義
    3. 社会実験としての分析・評価、成果のとりまとめ、公表
    4. 主催者・後援者
    5. 謝辞

資料一覧に戻る


 

このワークショップに参加される皆さんへ お願い

1. ワークショップが始まるまでに、このマニュアルと四つのシナリオに目を通してください。
2. このマニュアルは、全期間にわたって使います。毎回ご持参ください。
3. 各会合には開会の10分前までにお出でください。
4. 会場に車を止めることはできません。お車でのご来場はご遠慮ください。
5. ご自宅から会場までの交通費は鉄道、バスなど、公共交通機関を使ったものとしてお支払いします。5月17日にその金額をうかがい、5月31日にまとめてお支払いします。
6. 当日は、ノーネクタイなど、気軽な服装でおいで下さい。



このワークショップへの参加にあたって 知っておいていただきたいこと

■このワークショップが目指すもの
 シナリオ・ワークショップは、これまでにない全く新しい議論・協働作業の場であり、将来志向で問題を考える際に有効な参加型手法となりうる。このワークショップを主催する私たちプロジェクトのメンバーは、そう考えています。そして、現実の問題である「三番瀬の未来」を題材にし、この手法は有効か、どう使えるかを試す社会実験としてこれを開催します(社会実験についての詳細は参考資料をご覧ください)。
 皆さんに議論していただく「三番瀬の未来」とは、単に「三番瀬」という限られた場所だけでなく、それを取り巻く人々の生活と町のあり方を含んだ未来(ここでは、20年後、2023年を未来に想定)です。

 

■何をするのか?
 このマニュアルと一緒にお送りする4つのシナリオは、20年後の「三番瀬の未来」について典型的なパターンとして主催者が用意したものです。このシナリオでは、そこにいたる道筋や方法などは考慮していません。
 このシナリオ・ワークショップは、「三番瀬の未来」について、4つのシナリオを手がかりに、自由に議論することを通じて「共有できる未来像(ビジョン)」を作り上げ(第1のステップ)、その共有された未来像へ向けての「行動計画」を作り上げる(第2のステップ)ものです。

 

■シナリオ・ワークショップの主役
 ここで共有できる未来像、行動計画を作り上げるのは、ワークショップ参加者の皆さんです。具体的には、専門家、意見団体、産業界、議員など、個別に依頼したセクター別の参加者と、公募による市民参加者です。皆さんの間に意見、考え方の違いがあるのは当然ですが、お互いに理解しあい、冷静・率直・友好的に議論してくださるようお願いします。

 

■このワークショップを組織し運営する人々
1)事務局
 主催者が事務局となって、このワークショップを組織・運営します。事務局には、会議運営ボランティアも加わっています。事務局と運営委員会は、議論には関わりません。


2)運営委員会
 このワークショップが公平・公正に運営されるよう保障する役割を担います。委員会は主催者から3名、それ以外から3名で構成しています。


3)ファシリテーター(グループリーダー)
 ワークショップにおける討論を容易にする(ファシリテート)ために、会議・討論運営の専門家を招いています。討論はファシリテーターの司会・支援の下に行っていただきます。また、各グループには書記がついて、討論のまとめを補佐します。

 

■公開について
 ワークショップは原則的に非公開です。しかし、17日と31日の始めの全体会は、メディアに公開します。また、18日と31日の終了時には経過と成果を記者発表し、主催者のホームページなどでも公開します。
 ワークショップ参加者の情報は、氏名、年代、居住地域(市町村)を、また個別依頼の4セクター参加者については所属組織名を加えて、当日公開します。
このワークショップは、参加者の討論・共同作業を行う場です。参加者が、この場で本当に自由な発言をしていただくために、 ワークショップ終了後、このワークショップで経験されたことをお話しくださることは結構ですが、誰が、どのような発言をしたかには言及しないでください。

 

■このワークショップの記録収集について
 主催者は、社会実験として開催するこのワークショップの記録を研究資料として、さまざまに収集します。ワークショップの模様はビデオ、デジタル・カメラなどで撮ります。また、事務局のメンバーはワークショップを観察し、記録を取ります。これらはすべての過程で、個々の参加者にご迷惑がかからないよう情報管理を行います(これらの記録の取り扱い、公開については、参考資料をご覧ください)。

 

■すべて「さん」付けで
 このワークショップでは互いに呼びかけるとき、「さん」を用います。例えば、専門家に対しては「先生」と呼ぶのが自然かもしれません。しかし、ここでは、皆さんに、課題に対して対等な立場で議論していただきます。そのためにも、呼びかけはすべて例外なく「さん」付けにしてください。

■日時と会場
日時
第1日目 2003年5月17日(土曜日)
第2日目 2003年5月18日(日曜日)
第3日目 2003年5月31日(土曜日)
それぞれ、午前10時から午後5時まで。

会場
各日とも、千葉工業大学 津田沼校舎 7号館4階(7404・7405教室)で行います。
【津田沼キャンパス】
〒275-0016 千葉県習志野市津田沼2-17-1   TEL:047-475-2111
【交通アクセス】
●JR総武線/津田沼駅南口下車 徒歩1分(東京駅から快速で28分)
●京成線/京成津田沼駅下車 徒歩10分(京成上野駅から快速で37分)
●新京成線/新津田沼駅下車 徒歩3分

 


■ワークショップ全体の進め方、流れ
 下の図はワークショップ全体の進め方、流れとして、市民参加者を募集する際に示したものです。これは、次に述べるスケジュールを理解する上で助けになるでしょう。
 なお、後に述べますが、公募市民のグループが一つになったこと、公務員・議員セクターに公務員の参加を得られなかったことなど、実際に運営されるグループ構成とは少し異なる点があります。


■ワークショップのスケジュール(予定)
会議運営のルールと共に

* 参加者などのリスト、ワークショップのスケジュール
 ワークショップ参加者、ワークショップの組織・運営にあたる人々のリストは17日にお配りします。また、以下、スケジュール(予定)はイメージをもっていただくためのもので、当日あらためてスケジュールをお示しします。
シナリオ・ワークショップという方法と、その進め方については、このマニュアルの後ろに掲げる参考資料を参照してください。
 このワークショップは初めての試みであり、このマニュアルに想定したルールでは対処できないことが起こる可能性があります。その際は、この社会実験の責任者である研究代表者の判断で新たなルールの設定、あるいはルールの変更をすることがありえることを予め、参加者の皆さんにはご了承くださるようお願いします。

スケジュール

5月17日(土)
9:45 受付開始


10:00〜11:00:全体会1回目
ワークショップの趣旨・ルール・シナリオの説明

 

11:00〜11:10:アイスブレーキング
参加者全体でファシリテーターの下、同じやり方で議論に入るためのウォーミング・アップ(参加者の緊張を解くための活動で、氷を割る、アイス・ブレーキングという表現がよく使われる)をする。

 

11:10〜12:30:セクター別グループ第1回目
課題:未来像を作るための準備として四つのシナリオを検討する。
 未来像を作る手がかりにするため、四つのシナリオについて検討する。シナリオについて、自由に、賛否や留保事項、触発された新たな内容など、意見を出す。そして、意見の広がり、対立するものなどを討論によって整理し、意見のグループ分けをする。ここでは、プラス、マイナスの評価、対立点の確認など、シナリオを評価する。手法として、ブレインストーミング(批判しないルールのもとで自在にアイデアを出しあう方法)、KJ法(アイデアの要素を書きだして最後に構造的にまとめあげる方法)などを用いる。


12:30〜13:30:昼食・休憩

 

13:30〜14:20:全体会2回目
シナリオの検討結果を発表する

グループ討論で得られたものの共有を目指す。

 

14:20〜15:40:混成グループ第1回目
混成グループ: 
 各セクターから機械的に抽出して構成する。17日、18日は同じメンバーで行う。

課題:ビジョン要素を考えるために、考え方の違い、対立の軸などを明確にする。
 第1回セクター別グループ討論の結果を素材にして、考え方の違い、対立の軸を明確にするために討論する。未来を考えるための「対立」、「トレード・オフ(あちら立てればこちら立たず関係)」の整理を通じて、ビジョン要素(下のコラム解説を参照)を出すために何を考えればよいかを考える。
 「こうなって欲しい」を排除しない。認識の共有を目指す。
成果:考え方の違いと対立の軸の整理

 

15:40〜16:00:休憩

 

16:00〜17:00:全体会3回目
グループ発表
 各グループで議論されたことを全体で共有する。質疑は行うが、各グループから出された「違いや対立軸」はそのままに、翌日の討論に持ち越す。

1日目終了

 

 

5月18日(日)
10:00〜11:20:セクター別グループ第2回目
課題:ビジョン要素のリストアップ
 前日の成果を受けて、「こうなっていて欲しいこと」=ビジョン要素を各セクター・グループでまとめる。このとき、整理統合できない対立・矛盾するビジョン要素はそのままにする(合意を強く図らない)。

成果:得られたビジョン要素リスト。


ビジョン要素: ビジョン(未来像)全体を作るための一部を指す言葉。一部という表現を用いているが、その大きさにはこだわらない。例えば、20年後の三番瀬は、「海がこうなっていると良い」「海と関わる人の活動はこうなっていると良い」「海と町はああなっていると良い」など。

 

11:20〜12:10:全体会4回目
ビジョン要素リストの発表
発表時間は大変短いが、リストをまとめた際の議論を入れるようにして貰う。

 

12:10〜13:10:昼食・休憩

 

13:10〜14:30:混成グループ第2回目
課題:ビジョン要素の分類と、グループとしての望ましいビジョン要素のリストアップ
 全体会4回目で発表されたすべてのビジョン要素を分類し、その中から各グループとして望ましいビジョン要素を選び出す。このときも、整理統合できない対立・矛盾するビジョン要素はそのままにする(合意を強く図らない)。また、ビジョン要素を修正・変更してもよい。ビジョン要素の整理・分類はKJ法を用いる。その後、議論を通じて、望ましいビジョン要素を選び出す。

成果:ビジョン要素の分類;ビジョン要素のリスト
 各グループは、発表用に模造紙に分類についての考え方と要素リストを書き上げる。

 

14:30〜15:00:全体会5回目
それぞれのグループの発表

15:00〜15:20:休憩

15:20〜16:40:全体会6回目
ビジョン要素整理統合のための討論
 戦略的投票のためのビジョン要素リスト(最終ビジョン要素リスト)を作り上げる。
 重複を討論によって整理統合する。整理統合したものを戦略的投票(下のコラム解説を参照)にかける。ビジョン要素の整理統合は強い合意を図らず、意見の違いがあれば整理しない。

 

16:40〜17:00:戦略的投票=最終ビジョン要素リストに対して
 一人が3票を持ち、戦略的投票をする(10分)。投票はビジョン要素に付けられた番号を投票用紙に記入する。開票結果をプロジェクターで映して確認する。
戦略的投票:一人が3票を持ち、望ましいビジョン要素に投票する。その際、1票ずつ別のビジョン要素に投票することも、一つのビジョン要素に3票(あるいは2票)投票することも出来る。ここでは、この投票の仕方を戦略的投票と呼ぶ。

この結果から上位10のビジョン要素をまとめたものを
このワークショップが得た未来像とする。

ビジョンレポート: 17日、18日の討論の経過と、2日目の戦略的投票によって得られた上位10個のビジョン要素(ビジョン=未来像)を、事務局が文書化したもの。5月31日までにまとめる。

2日目終了

 

 

5月31日(土)
10:00〜10:40:全体会7回目
これまでを振り返る;ビジョンレポートの説明。本日の進め方の説明。

 

10:40〜12:00:セクター別グループ3回目
行動計画要素を得るための討論
 各グループ、最終ビジョンに至るための行動計画要素(下のコラム解説を参照)を5つ以内で作る。
 この行動計画要素の性質と内容は、各グループの討論によって決める。大きなものでも、小さなものでもよい。また、関わる人々・機関についても、範囲を限定しない。また、各グループでの討論も、異論があれば、それを包み込んだものとし、強い合意は図らない。


行動計画要素: 得られた未来像に向かうための行動計画。「要素」という言葉を付け加えているのは、未来像に向かって多様な取り組みが考えられるからである。このシナリオ・ワークショップでは、これらの多様な取り組みを総合したものを「行動計画」とする。

 

12:00〜13:00:昼食・休憩

 

13:00〜13:40:全体会8回目
行動計画要素グループ発表

 

13:40〜15:00:混成グループ3回目* この混成グループは新たに作り直す
行動計画要素討論
上で得られた行動計画要素に対して批判・議論・修正を行い、各グループ5つ以内の行動計画要素を作る。

 

15:00〜15:10:休憩

 

15:10〜17:00:全体会9回目
 15:10〜15:50
行動計画要素グループ発表

 15:50〜16:40
行動計画要素整理統合の討論
 重複する計画要素は参加者の議論によって出来るだけ統合する。しかし、強い合意は図らない。

16:40〜17:00
戦略的投票・開票
 一人が3票を持ち、戦略的投票をする。
 投票結果から、上位5つをまとめたものをこのワークショップの最終行動計画とする。

3日目終了

このページの目次に戻る

 

 

ワークショップに関わる人々と役割
* このワークショップに関わる人々は、個人として参加していますが、現在のお立場を記した名札をつけていただきます。ここで重ねて、このワークショップにどのような人々が関わるか、そして、どのように参加していただくかを説明します。

 

1)ワークショップ参加者
  シナリオ・ワークショップの主役です。「専門家」、「産業界」、「議員」、「NPO(市民団体)」および「公募による市民」の5つのセクターから32名で構成されます。計画では、公募による市民12名(2グループに)、そのほかのセクターは各6名ずつで、合計6グループ36名の予定でした。しかし、予定した行政セクター(3名)からの参加が得られませんでした。さらに、公募市民も応募が少なく、結局11名となり、1グループ(8名)としました。また、市民参加者の内、3名は「議員」グループに入っていただくこととしました。
 3日間の間、参加者の皆さんには、様々な背景をもたれる他の参加者と、お互いに考えを伝え、共有しあい、違いや合意を探るやりとりをしていただくことになります。当然のことですが、特定の個人に対する非難や中傷は慎んでください。また、気楽に疑問や意見を発言し、他の参加者の主張や指摘に耳を傾けながら、「三番瀬の未来」を作るという共同作業にご協力くださるようお願いします。
 議論・討論にあたっては、次の点にご留意ください。


@ 個別セクターの参加者は集団の代表としてではなく、個人として議論に参加します。ワークショップでの議論は、交渉ではなく、共同作業です。
A 議論にあたっては、ファシリテータ(グループリーダー)が、議論の進行をお手伝いします。その指示に従って下さい。

 

 

2)ファシリテーター(グループリーダー)
 ファシリテーターは、事務局メンバーではなく、各グループの議論をファシリテートする(ワークショップ、会議などで参加者の議論・討論を容易にし、促進する)ために主催者によって雇われた会議運営の専門家です。
 ファシリテーターはこのワークショップ運営において、次の3点を守ります。


@ 課題について、自らの考えを述べない。
A 議論の整理の方向についても、自らの考えを述べない。
B 議論・討論を自分の言葉でまとめない。

 

 

3)事務局
 今回のシナリオ・ワークショップは社会実験のため、事務局は実験の主催者の中から構成されています。さらに、複数のボランティアスタッフによって支えられています。
 事務局の一つの役割は、ワークショップをサポートすることです。グループ討論では、各グループに討論の過程やまとめをファシリテーターの指示によって記録する書記がつきます(議事録は作りません)。また「ファシリテーター補助」がそれぞれ1名つき、ファシリテーターの指示に従い雑務を引き受けます。当然のことですが、事務局メンバーはワークショップの議論には一切関わりません。
 また、事務局メンバーは、研究資料としてこのワークショップの記録を取る役割ももっています。

 

 

4)運営委員会
 運営の公平・公正を観察し保障する立場にあります。主催者(3名)と外部(3名)の計6名によって構成されています。また、公募一般市民の参加については、4月30日に行われた第2回運営委員会がこれを決定しました。運営委員は、ワークショップの議論には関わりません。

 

 

5)メディア
 このシナリオ・ワークショップの試みについて、広く社会に知って貰うために、主催者はメディアに記者発表します。また、17日、31日については、最初の全体会を取材できるよう取材者に案内します。

 

このページの目次に戻る
資料一覧に戻る

 

     参考資料

このシナリオ・ワークショップについて


 この参考資料は、このシナリオ・ワークショップがどのような経緯で計画・実行されるかを示したものです。

 

1.シナリオ・ワークショップについて

(1)シナリオ・ワークショップの目的と方法
シナリオ・ワークショップは、多様な人々の意見をまとめて政策づくりに反映させるための手法です。社会的な取り組みが現時点で必要とされるような問題を考えるときに多く使われます。当面の立場や利害関係から対立しがちな問題であっても、15年後、20年後(場合によっては30年後)という未来に舞台を設定して、将来はこうありたいという状況を関係者が協議しながら構想し、そこから現在の私たちがなすべきことを決めていこうという取組みです。関係者が熟慮して相互に理解しあうことを助けるために、いくつかの将来像(シナリオ)という道具だてが用意されることと、協議や決め方のルールを示して運営される舞台(ワークショップ)の特徴から、シナリオ・ワークショップと呼ばれます。

シナリオ・ワークショップは、1990年代前半にデンマークではじまり、今日まで海外では数多く実施されてきました。そのやり方はひとつではなく、細かくみるといくつかの流儀があります。これまでに取り上げられたテーマは「教育の未来」など様々ですが、とくにEU(欧州連合)の諸都市では「持続可能性を実現する都市への移行」をテーマとして繰り返し実施されています。

このときEUが作成したマニュアルによれば、シナリオ・ワークショップの長期的な目的は、持続可能性を実現する都市に向けて、技術的、社会的発展と環境とのバランスが取れるように、一般市民の参加をより効果的に得ることとされています。また、短期的な目的としては、企業家と住民の行動をどのように組み合わせればよいかを考えること、技術専門家、住民、企業の代表者、地方政府官僚・地方議会の議員との間で知識と意見の交換を促すこと、社会の様々な立場の者が集まって問題点とその解決策の認識について類似している点と異なる点を特定し議論すること、地域、国家、地球規模の各レベルでそれぞれ行うべき活動、政策および今後のイニシアティブについて新しい考え方と指針を示すことをあげています。

EUのマニュアルによれば、地元住民(NPO/NGOを含む)、技術専門家、地方政府官僚・地方議会の議員、民間部門の代表者という4つの立場からそれぞれ6〜8人、合計で30人ほどの参加者が選ばれます。シナリオ・ワークショップは2日間にわたって開催され、1日目にビジョン(望ましい未来像やその要素)をまとめ、2日目には、このビジョンを実現するために誰が何を行うかについて意見をまとめます。

もう少し細かくみると、まず、参加者はシナリオなどの資料を見ながら、重要だと思われる気がついたことをできるだけ多くあげていきます。これはアイデアの発散の過程といえます。そして、これらをビジョンとしてまとめていきます。こちらはアイデアの収束の過程にあたります。これらの発散と収束の過程をへたのちに、ビジョンを実現するための行動計画をつくります。

(2)シナリオ・ワークショップの特徴
シナリオ・ワークショップの最も大きな特徴は、与えられた課題について参加者が討論しやすいように、あらかじめ複数のシナリオが用意されることです。たとえば、「予想される将来の典型的な姿」が4つのシナリオで示されます。シナリオは、文書だけでなくイラストなどでも示されます。これらのシナリオには、たいてい互いに対立する内容が含まれています。参加者は、これらのシナリオに触発されて、問題をより広く、深く考えることができるようになります。

シナリオ・ワークショップのもう一つの特徴は、討論を重ねたうえで、まず先に、互いが共有できるビジョン(望ましい未来像)について合意をはかることです。このように将来指向の課題を設定することで、異なる立場の人たちでも現在の立場にもとづいた対立からいったん離れて討論がしやすくなり、意見や認識の相互理解や共有、さらに合意が得やすくなります。

ビジョンについて合意したあとで、参加者は、その未来像に到達するための道筋と方法、つまり誰が何をしていけばよいかという「行動計画」を定めます。これは、未来に向けた現在の行動計画であり、共有されたビジョンの実現にあたって考慮しなければならない様々な現実的な条件を踏まえて作成されます。そのため、複数のビジョン候補を残したままビジョンの合意を先送りし、それぞれの行動計画を討議したうえで、最終的なビジョンを選択することもあります。

2.社会実験として行うことの意義

(1)政策やその手段の「社会実験」の必要性と意義
「社会実験」は、今後、我が国の公共的な政策の形成や決定の局面で活用することが有効な手法の一つといわれています。現代の公共政策は、様々な利害や見方をもつ主体が多数関係し、それぞれの主体の自発的ないし誘発的な行動を通じて、形成・実施されることが多くなってきました。そのため、新しい政策やその手段(しくみやしかけなど)が、多様な関係者にどのように受けとめられていくのか、どんな効果や副作用があるのか、その過程でどのような問題があるのか、また、政策が機能するためにはどのような条件や環境が必要なのかなど、事前には政策の展開が見通しにくくなっています。影響の大きな新しい政策や手段を社会に本格的に導入してよいかどうか分からないときに、「社会実験」すなわち、時間と場所を限って実際の政策の現場で試行して評価し、問題点や可能性を検討して、導入するかどうか、導入するならばどのようなところに注意すべきか、どんな準備をすべきか、などを探るやり方が必要になってきたわけです。社会が学習しながらものを決めていく時代になってきたことを象徴するものです。


(2)今回の社会実験の背景と目的
今回の「三番瀬の未来を考えるシナリオ・ワークショップ」は、わが国の社会の問題解決や意思決定にシナリオ・ワークショップという手法が役立つかどうか、役立つためにはどのような課題があるかなどを、実際に試行して評価してみようというものです。この社会実験は、わが国の政策形成を社会や関係者に「開かれた」かたちで進める方法を提言する調査研究プロジェクト(後述)の一環として行います。

わが国の政策形成は、これまでもっぱら行政機関や与党が中心になり、一部の専門家の協力を得ながら進めてきたといっても過言ではありません。このため、政策の受け手や関係者の声がしばしば十分に届かずに、政策の内容が適切さを欠いたり、政策過程に不信が生じたりしたこともありました。そこで、政策形成過程を、問題に応じた適切な形態で、社会や関係者に「開く」ことが望まれるようになってきました。また、もともと社会の目標にもとづいて政策をたてるときには、広く目標づくりに社会の各層が参加することが必要でもあります。

しかし、こうした政策のつくりかたは、わが国では十分な経験がありません。そのための方法も、問題や社会に合わせてつくって行かなければなりません。このことに対する社会の認知も、まだ広がっていません。そこで、今回は、そのあり方をめぐって多くの関係者や関心を持つ人々が論じている三番瀬を事例として、シナリオ・ワークショップという新しい手法を、「社会実験」として試行してみようとしています。そして、できれば三番瀬のあり方に関わる重要な参照意見がまとまり、関係各方面で活用されるとともに、シナリオ・ワークショップという手法の課題や展望が明らかになり、「開かれた」政策形成手法の一つとして本格的に導入が検討され始めることを期待しています。

3.社会実験としての分析・評価、成果のとりまとめ、公表
今回の「三番瀬の未来を考えるシナリオ・ワークショップ」では、社会実験としてシナリオ・ワークショップを設計し、分析・評価を行います。そのため、シナリオ・ワークショップの過程や現場を、主催者の研究チームのメンバーが全体会やグループ会議の周辺で、様々な角度から記録し観察することになりますが、できるだけお気になされずに議論を進めてください。

成果の提示・公表と活用については、社会実験としての報告書・報告書要約版(要約とポイント)・評価レポートなどをとりまとめ、ご後援をいただいた三番瀬再生計画検討会議・千葉県をはじめ、三番瀬の問題に関連する主体に広く配布し、今後の取組みの参考に供します。もちろん、ご参加ご協力いただいた方々にもお届けいたします。ご感想やコメントをいただければ幸いです。

また、政策過程・政策体制を研究している諸学会で発表し、広く社会の専門家・実務家・関心主体にシナリオ・ワークショップの社会実験の成果・分析・評価を問いかけ、理解を深めて、「開かれた」政策形成手法が適正に認知・利用されていくことを図ります。

もちろん、これらのすべての過程を通じて、特定の個人にご迷惑がかからないように、情報管理を行います。

4.主催者・後援者
今回のシナリオ・ワークショップを主催するのは、若松征男(東京電機大学教授)を代表者とする研究チームで、東京工業大学、早稲田大学、熊本大学、国立教育政策研究所、財団法人政策科学研究所などに所属する研究者から構成されています。国(科学技術振興事業団)の公募研究制度(社会技術研究推進事業)で採択された調査研究「開かれた科学技術政策形成支援システムの開発」の一環として実施します。同時に、シナリオ・ワークショップが公正に運営されていることを確認するために、「シナリオ・ワークショップ運営委員会」を研究チームの外部に設置しています。この運営委員会は、研究チームの内部と外部から同数(各3人)の委員で構成し、外部からの者が運営委員長に就任しています。

この研究の性格上、社会実験は「研究のための研究」として行われるのではなく、社会の問題解決や意思決定に役立つ仕組みやしかけ、知的支援ツールを開発し、検証しようという実践的なものです。このため、具体的な三番瀬のフィールドで何らかの貢献をするように構想・設計されていて、多くの関係者のご助力をいただき、かつ三番瀬再生計画検討会議・千葉県のご後援を得て実施しています。

5.謝  辞
3日間におよぶシナリオ・ワークショップと、前後の長期間にわたる一連の活動にご参加、ご協力いただくすべての皆さまに、心からの敬意と感謝の意を表します。主催者は、この成果をふまえ、関係各方面に積極的な提言を行うことで応えていきたいと思います。