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シナリオ・ワークショップとは
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シナリオ・ワークショップは、デンマークで生まれた参加型テクノロジーアセスメント(pTA)の手法のひとつで、欧州ではしばしば利用されています。この研究プロジェクトの活動の一環として、メンバーのひとりである平川秀幸(京都女子大学現代社会学部講師)が2002年3月に欧州におけるシナリオ・ワークショップについて訪問調査を行いました。訪問先はシナリオ・ワークショップを主催する立場にあるデンマーク技術委員会(Danish Board of Technology: DBT)で、Lars Kluver事務局長と、Gyrethe Larsen氏(プロジェクト・マネージャー)にインタビューを行うことができました。Kluver氏からはシナリオ作成とワークショップの議事進行に関する一般的な事柄について説明を受けて、Larsen氏からは、教育現場におけるコンピューター利用をテーマに行われた2001年のシナリオワークショップ「教育の未来」のシナリオ作成や運営について、プロジェクト・マネージャーの立場からお話をうかがいました。これよりその調査結果の一部を紹介したいと思います。




Kluver氏によればシナリオワークショップは、30年ほど前にドイツで開発され、その後デンマークで数多く用いられてきた「フューチャー・ラボ(Future Lab:未来実験室)」のさまざまな手法を系統的に組み合わせたもので、DBTでは、今回聞き取りをした「教育の未来」以外に、「都市生態問題」(1992-93年)と「未来の図書館」(1995-96年)で、過去2回実施されているほか、コペンハーゲン・ビジネススクールなど、他の主体によって多数実施されているそうです。また1993年からは、欧州委員会第13総局の価値/改新プログラム(Value/Innovation Program)のもとで、「持続可能な都市生活」をテーマに、欧州連合(EU)加盟各国で実施されており、詳細な実施マニュアル(クック・ブック)が作成・公開されています。
European Awareness Scenario Workshops

シナリオワークショップのプロセスは、ある技術を用いたり、開発プロジェクトを実施した結果、どんな社会的影響・効果が生じ、どんな未来になるかを、通常は特定の地域社会について予測した「シナリオ」を予め用意し、これを、何段階(「フェイズ」)かにわたる討論を経て、この社会変化に関わる人々からなる参加者によって吟味し、それぞれの立場から見て望ましい未来像(ヴィジョン)を描き、最終的に全員が共有できるヴィジョンと、それを実現するための行動プランを定めるためのものです。




シナリオワークショップの参加者は、アセスメント対象の技術に関する地域の利害関係者25〜30名で構成され、その内訳は、たとえば次のようになっています。
  • 国・自治体の政府関係者(政治家、行政官)
  • 当該技術に関する専門家
  • 投資家、ビジネス関係者
またシナリオワークショップの主な目的は次の二つだといわれています。
  • 地域における行動のための基盤を築くこと。
  • 当該の問題や検討対象となるシナリオとその前提条件に関する参加者のヴィジョンや態度について知識を集めること。
こうした目的を達成するために、シナリオワークショップは、一般的ルールとして、次の事柄が確保されるように行われます。
  • すべての参加者が発言の機会を持てること
  • あらゆるアイデアが議論のテーブルに載せられること
  • 作業は、一つの最終的な行動プランの策定を目的とすること





他のテクノロジーアセスメント手法と同様に、シナリオワークショップも万能ではありません。効果を発揮できるトピックには、以下のような条件があります。
  1. 狭すぎないこと
  2. 複数の技術からの選択や評価ができること
  3. 参加者が行動可能な規模の問題であること。すなわち、状況に対して参加者が働きかけ影響力を行使できたり、あらゆる決定がすべて為された段階には至っていないこと。
  4. 社会的に重要なトピックであること
  5. 地域における行動が必要だということについて合意が存在していること
  6. 当該技術に関する専門家の洞察と、ユーザー側の経験の交換を通じて、新たな知識が生み出されなければならないこと
ここで興味深いのは条件 e です。Kluver氏によればシナリオワークショップは、各参加者の制度的背景・知識背景・経験背景の違いや、それぞれが及ぼしうる社会的影響力(権力)の大きさの違いがありながらも、取り組むべき共通の問題が存在して、それが何であるかについて合意があるようなトピックを扱うに適しているそうです。そのような場合には、シナリオワークショップは参加者に対し、なぜ自分たちの行動パターンを変えなければならないかを理解させ、共に働き、互いに学びあい、共通した問題解決のアプローチをとるための機会を提供します。反対に、出発点での参加者の見解の違いがありすぎ、鋭い対立が存在するトピックを扱うのには向いていないといわれています。




では、関係者の間に鋭い対立があり、合意できるポイントがほとんど無いような場合はどうしたらよいのでしょうか。Kluver氏によれば、そのような場合には「フューチャー・サーチ(Future Search)」が向いているそうです。これによって、対立し、共同の行動などできない状態にある関係者たちに、自分たちは共に行動し建設的に働く必要があることを理解する機会、「学習プロセス」を提供するそうです。

そのように対立調停機能があるフューチャー・サーチは、その裏返しとして、結果(アウトプット)は、この対立を乗り越えて共有される一つの「行動」だけに限られることになります。この点は、「一つの共通の問題」から出発して、さまざまな行動プランからなる包括的な行動プランに至る過程で、問題解決のための多様なヴィジョンや行動プラン案を引き出すシナリオワークショップとは好対照をなしています。状況に応じて、どちらの手法を使うべきかが変わってくるのであり、たとえば、シナリオワークショップの前段階としてまずフューチャー・サーチを行い、取り組むべき「共通の問題」を関係者が発見・合意できるようにして、次いでこれに基づきシナリオワークショップを行うという組み合わせも考えられます(図1-1)。







 シナリオワークショップの構成は、図1-2のように、シナリオ作成に始まる各段階(フェイズ)からなっています。ワークショップ本体は、計2日間行われ、「役割別ワークショップ(role workshop)」と呼ばれる「批評フェイズ(criticism phase)」「ヴィジョン・フェイズ(vision phase)「混成ワークショップ(mixed workshop)」と呼ばれる「現実フェイズ(reality phase)」「行動プラン・フェイズ(action plan phase)」の4フェイズで行われます。以下、各段階の内容について説明していきます。






ワークショップ全体の出発点となるシナリオは、通常4本作成されます。その執筆は、ワークショップの企画グループを作り、複数の専門家と協議したうえで、ジャーナリストなどが単独ないし専門家と共同で書いたりします。こうすることで、多様な専門性を統合した学際的・多面的な視点に基づいたシナリオを作ることができます。今回Larsen氏から聞き取りをした「教育の未来」では、ジャーナリストが書いています。ジャーナリストが書くメリットととしては、文章表現やその他の表現法がコンパクトで的確なものになるので、ワークショップ参加者が理解しやすいという点があるといいます。反対に専門家が書くと、ついつい専門家としての律儀さから、正確さを期すべく、副資料も含めてドキュメントが膨大になりがちだという欠点があるといいます。またジャーナリストは、仕事柄、多数の専門家から話を聞き、それを総合して一つの表現物にまとめることに長けているという利点もあります。

シナリオを書くのが誰であれ、執筆の前には準備段階として、通常、10人未満の専門家など、問題に詳しい人々を集めて「ブレインストーミング」が行われます。ブレインストーミングのメンバーの選定は、「新しいアイデアに果敢に取り組めること」、「幅広い関心を持っていること」などの条件を基準にして行われます。

次に、シナリオの作成は、トピックの内容に応じて、系統的・構造的なやり方で行われることもあれば、もっと柔軟なやり方で行われる場合もあります。

系統的なやり方の例としては、問題解決の主体(アクター)と方法に関するシナリオであるとすれば、@アクターの軸(自治体組織−個々の住民)、A解決方法の軸(技術的解決−非技術的解決)という二つの評価軸からなる4つの象限ごとにシナリオが作成されます(図1-3)。この方式は、92-93年に都市生態学をトピックとしてデンマークで開かれたシナリオワークショップで用いられています(EUROPTA, 2000)。なおKluver氏によれば、シナリオ作成のありがちな誤りは、評価軸を一つだけにして、両極端な二つのシナリオを作ることだといいます。



これに加えて、現時点でのある行動の選択が、将来のある時点でどのような影響をもたらす可能性が高いかの数値的な予測を行う「統計的シナリオ」という手法もあります。たとえば、ある海岸地域の開発計画があった場合に、「何もしない」という選択肢も含めて、どのような計画を実行するかの複数の選択肢(行動1, 行動2 …)を用意し、それぞれがもたらす将来のプラス/マイナスの帰結を、いくつかの必要な評価項目(たとえば自然環境への影響、地域の雇用状況への影響、地域経済への影響など)について予測します(図1-4)。



他方、柔軟な方法の例としては、たとえば今回Larsen氏より聞き取りした「教育の未来」のように、シナリオごとに内容の違う「未来のある朝の新聞」という型式があります。その背後には、たくさんの予測データとしての「背景シナリオ(hidden scenario)」がありますが、シナリオワークショップで実際に用いられるシナリオ自体は、シナリオごとの一組の新聞記事として表現されています。ちなみに「教育への情報技術の導入に関するシナリオワークショップ」で用いられた新聞のレイアウトは、実在のデンマークの日刊紙Information紙のものが、紙名も含めてそのまま用いられました。

ところで実際に作成されるシナリオは、起こりうると予測されるすべての帰結パターンについてのものではありません。その帰結がどれくらい関係者にとって重要であるかという「重要性」と、その帰結がどの程度の見込みで起こるかという「蓋然性」という二つの基準について、それぞれ五段階評価で吟味し、重要性と蓋然性がより高いもののなかから、いくつか(通常は四つ)のシナリオが選ばれます(図1-5)。その際には、利害集団それぞれの利害関心のリストが作られ、利用されます。



また「良いシナリオ」の条件(成功条件)は、ケース・バイ・ケースでいろいろありえますが、Kluver氏によれば、最低限、どのシナリオも、関係者にとってトレード・オフの要素を含み、誰にとっても十分には満足のいかないものであるが、誰にとっても妥協可能なものであることが必要であるといいます。いいかえれば、誰かが全面的な勝者、誰かが全面的な敗者となっしまうシナリオではなく、誰もが多かれ少なかれ得るところがあり勝者になれるようなものが良いということです。




先に述べたように、参加者が実際に参加して行われるシナリオワークショップ本体は、通常2日間開かれ、前半は「役割別ワークショップ」と呼ばれる「批評フェイズ」「ヴィジョン・フェイズ」が行われます。これらが役割別ワークショップと呼ばれるのは、参加者が、たとえば「産業界」、「NGO(非政府組織)」、「行政当局」、「被影響者」などの役割(属性)ごとの「ワーク・グループ」に分けられるからです。それぞれのグループ内部では、メンバー間に、背景となる経験の小さな違いはあるものの、利害関心や、権威、正統性などの点で、なにかしら互いを一つに結びつける共通項があります。

では、役割別ワークショップではどのような作業が行われるのでしょうか。まず、その前半段階である批評フェイズでは、それぞれの役割の立場から、各グループによるシナリオすべての批評が行われます。各グループごとにたくさんの批評論点が挙げられ、「批評カタログ」が作られます。また、この批評は、次のヴィジョン・フェイズでのヴィジョン作りに資するような建設的なものでなければなりません。Kluver氏によれば、ワークショップでは、このフェイズに最も時間がかけられ、シナリオワークショップの全日程が2日間だとすれば、1日半の時間がかけられるといいます。時間をかけるのは、その後のフェイズでの議論に資するための建設的で質の高い批評結果が得られるようにするためです。

「批評カタログ」が得られた後には、そのなかの論点に優先順位をつけ、各グループごとに、比較的少数の論点に絞り込む作業が行われます。ここまでのプロセスは、まず、できるだけたくさんの論点を出し、その後、数を絞り込むことから、「拡大-選択法(Expansion-Selection Method)」と呼びます(図1-6)。



なお、この論点の優先順位付け・絞込み(選択)は、しばしば最終的に「投票」で行われますが、このときには、投票の前に十分に議論をしておくことが不可欠で、とくに、本当に真剣に考えられた批評論点に的を絞り、その内容の「クォリティ」に関する評価・議論が必要だといわれます。これなしに投票に持ち込んでしまうことには、より良い論点が排除されてしまう危険があるからです。

批評論点の絞込み・選択の後は、役割別ワークショップの後半段階であるヴィジョン・フェイズに進みます。選ばれた批評論点をもとに、それぞれのワーク・グループの立場から望ましい未来像としての「ヴィジョン」を作る。もしも批評フェイズで絞り込まれた批評論点が12個ならば、ヴィジョンも12個になります。全体では、たとえば4グループあれば、12×4 = 48個のヴィジョンが作られることになります。

しかしながら、これらのヴィジョン全てを、そのまま次の「現実フェイズ(reality phase)」に持ち込んで検討するわけにはいきません。あまりに数が多すぎるからです。そこで、ここでも再び、批評フェイズと同様に優先順位付け・絞込みが行われ、選ばれた比較的少数のヴィジョンが、現実フェイズで検討されるのです。




現実フェイズとそれに続く行動プラン・フェイズは、それまで役割別に分かれていたグループを解体し、すべての立場が一緒になって、議論が進められます。このためこの段階での討論・検討は「混成ワークショップ」と呼ばれます。

現実フェイズでは、ヴィジョン・フェイズで各グループが提案し優先選択したヴィジョンについて、他の立場の利害関心や、ヴィジョンの実現にあたって考慮しなければならないさまざまな条件(物理的条件・技術的条件・経済的条件など)などの「現実」の観点から、ヴィジョンの評価・検討・優先選択が行われます。このときにも、参加者間で十分に議論を尽くすことが重要となります。

最後に、行動プラン・フェイズでは、現実フェイズで彫琢され合意されたヴィジョンを実現するための具体的な行動プランの策定が行われます。これを経て最終的に選ばれたヴィジョンと行動プランが、シナリオワークショップの結論としてプレス発表され、専門家や政治家による評価・検討や意思決定にかけられるとともに、一般市民に対しても内容が共有されます。




ワークショップ終了後は、その内容や最終的なヴィジョンと行動プランについての報告書が作成されます。この作成で注目しておくべきポイントは、参加者自身が報告書を執筆するコンセンサス会議と違って、シナリオワークショップでは一般に参加者は報告書を直接執筆せず、企画・運営スタッフの側で執筆することです。このため、報告書作成は、ワークショップの議事進行の中で作られるたくさんの文書の内容を「翻訳」する作業となり、報告書の内容が実際の参加者たちの議論と食い違わないようにするための工夫が必要となります。Kluver氏によれば、その方法には、たとえば次のようなものがあります。

・スタッフが会合に居合わせて、曖昧さを残さぬよう、意味を確かめながらノートをとっておく。
・報告書案を参加者に回覧し、漏れや誤りがないかをチェックしてもらう。

なお、今回Larsen氏より聞き取りをしたシナリオワークショップ「教育の未来」では、Larsen資本人、シナリオを執筆したジャーナリスト、4つの参加者グループそれぞれに張り付いていたスタッフが報告書を執筆しましたが、それとともに、一部、参加者たちに短いまとめの文書を書いてもらい、それを報告書に収録するなどの工夫をしています。








Larsen氏がプロジェクト・マネージャーを勤めたシナリオワークショップ「教育の未来」では、2001年の5月に第1日目が、1ヶ月あけた6月に第2日目が開かれました。通常、シナリオワークショップので扱うトピックは地域的な問題ですが、今回の場合は、教育という国策レベルのものであり、参加者も全国から集められました(とはいえ、デンマークの人口は540万人ほどであり、東京都の半分以下である)。

参加者数は80人で、通常のシナリオワークショップよりもはるかに多く、もっと少数の規模のものを数箇所で行うことも考えられましたが、結局、全員を一箇所に集めて行うことになったといいます。参加者には以下の属性の人々が集められました。

・教師
・生徒
・教材・教育機器制作会社/出版社
・市民団体
・研究者(専門家)

今回は、とくに教育現場でコンピューターを使う側の態度や考えが重要だったので、専門家はあまり多くは招かれていません。

またワークショップ終了から半年後には、ワークショップの成果の報告と評価のための特別会議がエクストラで開かれています。





教育分野での情報技術の利用は、デンマークでは、ここ五年ほどのあいだに注目を集めている現在進行形の問題です。小中学校など教育現場へのコンピューターの普及は、大きく進んでいる学校もあればそうでないところもあるという具合に、現在が過渡期という状況であるといいます。DBTでは今回、このテーマについて、「技術に対する熱心な視点」という観点から、次のような問題設定でシナリオワークショップを行いました。

コンピューターは、教育をどのように変えるか、そのポジティヴな教育上の効果は何か?

Larsen氏によれば、これはとてもシンプルな問いだが、人々を集め協力させるのにとても良い問いであったといいます。

出発点で各参加者がもっていた意見は、たとえば「教育にコンピューターは必要か」、「コンピューターがどう働くのか、教育のなかでどのように利用できるのかに関する知識を身につけることは、自分たちにとって重要かどうか」などの論点について、実に多様であったといいます。しかしその一方で、「コンピューターを用いてどのような種類の教育を行うか」、「コンピューターを具体的にどのように使うか」というような問題や、参加者の態度は非常にオープンで、取り組みに前向きであったといいます。

また、特に若年層の教師たちは、コンピューターの利用技術をいかに多く学ぶかというような、技術的な詳細に関して非常に熱心でした。これに対してLarsen氏を中心とするワークショップの運営サイドでは彼らに、「教師の立場として、コンピューターをどう使うか」、つまり「国語や数学、英語など自分が受け持っている各科目教育のなかでコンピューターをどう使うか、そのポジティヴな効果は何か」などを議論してもらうようにしたといいます。いいかえれば、コンピューターの専門家ではなく、教師というプロフェッショナルの立場で議論してもらったのです。

参加者の全般的傾向としては、一人一人がたくさんの疑問やアイデアをもっていて、新しいことを学び、他の意見に耳を傾けることに非常に前向きでオープンだったといいます。また、政治家が教育へのコンピューター利用に対して沢山の予算を与える際に、考慮に入れておいてもらいたい事柄を探し出すことにも熱心だったといいます。




先に述べたように、「教育の未来」の参加者は80人であり、通常よりもかなり大規模なシナリオワークショップでした。2001年5月に開かれたワークショップ第1日目の会合では、この80名が4つのグループに分けられ、用意された4つのシナリオの批評を行いました。各グループは、どれも、教師、生徒、教材制作者などすべての属性の混成グループであり、先に批評フェイズとヴィジョン・フェイズは、属性(役割)ごとに振り分けられたグループによる役割別ワークショップになると述べましたが、「教育の未来」では、混成ワークショップが行われたことになります。各グループは、それぞれ4つのシナリオすべてについて、1つあたり3時間ずつかけて議論をしました。また、4つのシナリオは、それぞれ@初等教育、A中・高等等教育、B成人教育、およびCこれら三つにまたがる領域におけるコンピューター利用の普及の効果を、それぞれ書かれたものです。

ちなみに先に見たようにシナリオワークショップのシナリオは、通常は互いにトレード・オフの競合的関係を持っていますが、今回のものは、それぞれ社会集団ごとの未来像を描くことで、問題の全体像をカヴァーするものになっていることが、大きな特徴です。




先にも述べたように「教育の未来」のシナリオは、実在の新聞社Informationの協力を得て、2005年の仮想新聞のスタイル(一つのシナリオが一面ずつ配置されている)でまとめられました。この形式は、要点がコンパクトにまとめられ、内容を理解し憶えやすいもので、それぞれ自分の生活や仕事をもち、通常の専門家が用意するような大量の資料を読む時間がない参加者にとって効果的であったといいます。また新聞という持ち運びしやすく、かつ、斬新なアイデアゆえに、第1日目の会合の後、参加者が家庭や職場に持ち帰り、他の人々との議論を広げやすく、ワークショップ終了後も良く憶えているという利点もあったといいます。なお企画グループのメンバーは無報酬で参加しています。

ワークショップの準備をした企画グループには、コンピューター技術ではなく、小・中学校、高校、大学で実際に教えている教師が、いわば技術のユーザー側の「専門家」として集められました。シナリオ制作の費やされた期間は約1ヵ月半ほどで、企画グループに加わっていたジャーナリスト(Information紙の記者ではない)が最終的に文章にまとめました。

ワークショップ全体の運営は、DBTがイニシアティヴをとり、会合ではファシリテーターが雇われて、議論の舵取りやロジスティックスを担当してもらいました。上記のシナリオ制作を含む全体の準備期間は約5ヶ月であったが、事情が許せば、もっと短い期間でもできたはずだったといいます。長くかかったのは、一つには、Larsen氏などDBTのスタッフは、他にもたくさんプロジェクト等の仕事を抱えていること、また教育省が今回のシナリオワークショップに大変興味を持っており、教育省とDBTで協議をもつことになったが、双方の忙しさからなかなかその時間がとれず、長く待たざるをえなかったからだといいます。

ワークショップの運営資金は、政府からの助成金はなく、全額DBTの予算から出されました。その全額は400,000 DKK(デンマーク・クローネ: 1DKK=約17円)で、これには、ワークショップ終了半年後に開かれた特別会議の分も含まれています。




先に述べたようにワークショップは、第1日と第2日の間に約1ヶ月の時間が開けられました。Larsen氏によれば、この措置には、その間に参加者が職場や家庭で、同僚や家族などとともにワークショップで扱ったトピックについて議論したり、情報を集め、より深く問題を理解したりするのに実に役立ったといいます。

他方、80人の参加者を集め、デンマーク全体の教育政策に関わる大きなテーマを扱ったことから、今回のワークショップでは、第1日目の批評フェイズで、全部で16ページに及ぶ実に多くの批評論点が挙げられました。このため、第2日目の会合を企画するにあたって、での議論を行うために、その中からより重要なものを抜き出す必要が生じました。そこで企画・運営委員会のほうで、批評フェイズで議論された論点の中からいくつかのテーマを選び、参加者に「2日目の会合で、どのテーマの議論に参加したいか」を決めてもらったといいます。

この点で今回のシナリオワークショップは、従来の方式と大きく異なっており、DBTでも議論になりましたが、最終的にこれもまたシナリオワークショップの一つのやり方だという結論になったといいいます。




先に述べたようにワークショップ終了から半年後に、成果報告を目的にした特別会議が開かれました。トピックに関心のある専門家を含むワークショップ以外のたくさんの人々も参加し、熱心な議論が行われたといいます。この点で特別会議を開いたことには、シナリオワークショップの議論を深化し、たくさんの人々と共有する点で大きな意義があったといいます。




Larsen氏とのインタビューでは、最後にシナリオワークショップという手法のメリットについての評価を尋ねました。それによれば、一般に、シナリオワークショップやコンセンサス会議などさまざまにあるpTAの手法は、その扱うトピックや目指す結論のタイプに応じて、固有のメリットがあり、どれがより優れているかを比較しあうことはできないものだといいます。しかしながら、ワークショップの成果として、明確なヴィジョンや行動プラン案が得られること、ワークショップ以前には誰ももっていなかった新しい結論に参加者が達することができること、そのトピックに向けてさまざまな立場の人々が熱心に議論し、学びあい、共同で作業を進めることができるなど、「社会的学習」の機会を提供する点で、pTAの手法として大きなメリットがあるといいます。

なかでも、さまざまな立場の人々が一同に会して議論し協同することには大きな意義があるといいます。とくに今回のような教育問題では、今回のシナリオワークショップがなければ、決して一緒に議論し作業することなどありえない初等教育の教師と大学教育の教師の交流が実現したことは大きな成果であり、実際、ワークショップの報告書の主要な結論の一つが、この「出会い」であったといいます。





参考資料
EUROPTA. 2000. European Participatory Technology Assessment: Participatory Methods in Technology Assessment and Technology Decision-Making, The Danish Board of Technology.
www.tekno.dk/europta

政策科学研究所. 2000. 『科学技術と社会・国民の相互作用に関する調査研究』, 政策科学研究所.